表意文字の思い出
表意文字を作ったことがありますが、一言でいえば面倒でした。 基本字で2000字強作りましたが、覚えるのも作るのも面倒です。
見た目に分かりやすいので万人受けすると思って作ったのです。 ですが、いざ「木」という字を仲間に作らせたら、彼女は高緯度出身だったので、Y字型に字を作りました。 文化が絡みすぎてアレンジ自然言語になってしまいました。
あと、フォント作りが難しいのも欠点です。 PCでフォントを表示するのにも打ち込むのにも一苦労です。 学習においても漢字と同じで時間がとられるので、これは面倒と思いました。 それに、辞書作るときもどの字から載せていいか迷うし……。
言語を運用する際、読み書き喋り聞き、そして現代ではPCへの打ち込みが重要です。 作る際から運用のことを考えておかなければならないが、運用の前には学習があります。 端的に言えば、作成→学習→運用という順番です。 その観点で表意文字と表音文字を見てみましょう。 長くなるので上の5要素に例を1つずつ挙げます。
まず、読みは表意も表音も大して差がありません。 漢字の読みを覚えるのが多少大変なので、表音のほうが楽かもしれませんが……。 速読の場合、漢字が重要語であることが多いので、漢字を目安に読んでいくそうで、 英語だとこれが難しい。 英語の速読は漢字の代わりにラテン系の長い単語を拾います。 読みに関しては、一度覚えてしまえば表意のほうが便利かもしれませんね。
次に書き。これは表音の勝ちでしょう。書くには覚えなければならない。 みなさんも子供のころ漢字の書きで苦労したでしょう。読みならできるのに……みたいな。 というわけで、書くにあたっては表意のほうが一般に面倒です。 一般といったのは、英語のように綴りと読みが一致しないで暗記を要する表音もあるからです。
次に喋りと聞きですが、これは表意文字はアドバンテージを失う。 表意は、特に象形がそうですが、字自体に意味があるので、 目で見て意味を判断できる。 とっさに目に入ってきても分かる。 その表意性が利点です。が、喋りと聞きの場合はこの利点を失います。 表意文字も音声になれば表音でしかなくなるからです。 これは大きなディスアドバンテージです。言語は書くより話すのが本来ですから。
私の場合、机上の空論の時点では表意でもやってけたんですが、たまに作った文字を忘れるわけです。 でも会話はできてしまう。 で、メモるとき、忘れた字を音声記号で代用していたら、なんだかこっちのほうが楽なんじゃないかと 思ったことがあります。
次にPC。これはもう表意の勝ちでしょう。 林檎と手で書くのは難しいし面倒だが、appleは早くて楽です。 ところがPCになると「ringo」で変換すればいいので楽です。 「koukou」なんて高校と書くのは面倒ですが、high schoolと書くのも面倒です。 でも打ち込むと早い。 漢字はタイプライターやファミコン時代には使いづらかったですが、 現在ではかえってアドバンテージがあると思います。
で、そういう観点から見て、表意と表音のどちらを選ぶかなんですが、 実際どっちが決定的に優れてるということはないです。 上で見たように、一長一短だからです。
ただ、新しい人工言語や未開の言語を見つけてフィールドワークするときに、 学者が自分で表意文字を作るより表音文字を作ることが圧倒的に多かったことからも、 表音のほうが手っ取り早くて便利とはいえるでしょう。 逆に表意は覚えてさえしまえば打ち込みや速読、そして文字そのものの神秘性といった表音にない 利点を発揮します。だから一長一短です。
勿論、最終的な決定はここの5要素だけでなく、 フォントが作りにくいとか、辞書作成が大変とか、そういう労力まで細かく考えていかねばなりませんが。
で、ここまでで何度か学習と運用について触れました。 次はこのバランスの話をします。
人工言語を作ると、まず運用より学習に目が行きます。そっちのほうが先なので。 自分は作ることによって学習も多少してるし、 普及型は学習の容易さを求めることも関与します。 ですが、学習しやすい=良いではないです。
エスペラントのestasは体系的で学習しやすいです。 でも、英語のisに比べてずっと長くないですか? isほどの頻度があるのにestasというのでは、運用の際に面倒ではありませんか。 実際、この点を指摘して作り変えられた別の人工言語もあるほどです。 このように、言語を作る際は学習と運用のバランスを考えて作ります。
ここで本題の文字に戻りますが、漢字は意味だけでなく音も表わすことがあります。 これって良い知恵ですよね。 漢字は画数が多くて面倒くさい。しかも曲線と直線を基本的に区別しないので、 パターン数が減り、どうしても複雑な形を作らざるをえない。 これは学び辛いし、覚え辛いです。
でもその代わり形声のように、その面倒くささのおかげで音が分かる。 学習しなくても察して読むことができる。 これは学習を省き、運用上も悩まなくていいので楽です。 さすが自然言語。良いバランスを取ってます。 といっても自然の産物なので例外が多く難しいのは否めないのですが……。 いずれにせよここでの主張は学習と運用のバランスを考えて言語を作ろうということで、 これは文字にもあてはまる、ということです。
- はじめに
- 新語の補充と普及
- 人工文化による警鐘
- 自文化の排他
- 人工文化な生活
- 普及型を作っている人へ
- 人工文化応用の実例
- 表意文字の思い出
- 辞書について覚書
- 最小対語の処理法
- 人工言語で感情を
- 孤軍奮闘の人工言語
- ピクトグラム
- 地名の付け方
- 人名について
- 語の音が卑語に似た場合
- 普及型の実情
- 人工言語で何ができるか
- 協力者の獲得
- 高級語の命名法
- 人工言語は簡単か
- 自然物以外の高級語
- 新生人工言語とアルカ
- ゼロから語彙を作るには
- 日本の人工言語
- 人工言語の天秤
- 文化なしでできること
- エスペラントとアルカ
- 学問の薦め
- 趣味としての人工言語
- 人工言語から見たアスペクト
- 言語の優劣
- 月刊「言語」2006年11月号レビュー
- 言語の使用状況を見抜く
- 人工言語普及論
- 人工言語と思想団体
- n対語の弁別性
