アルカの声

アルカの発声について。以下は位相のひとつとしての発声法で、必ずしもこの発声法をするわけではありません。 細かい話なので読み飛ばしても構いません。文法とは関係のないアンティス関連の記事です。

*世界観注釈 アルティスはアトラスにある架空の宗教で、ヴァルテはそこの信者を指します。 アトラスではアルティスが普及しているため、アンティスを代表する思想になっています。

1:声とアルティス

アルティスにおいて声は非常に重要な意味を持つ。 ヴァルテはふつう自分の声域を知っているし、自分と聞き手にとって心地良い声というのを常に意識している。 また、自分の声の高さがどのくらい変動するかとか、 自分の発音が明瞭かとかいったことについても意識している。 他にも、声が震えていないか、上ずってないか、妙に低くないかなども気にしている。

2:声の価値

理想的な声や好まれる声というのは文化によってまちまちである。 一般に日本では女性は高い声の方が可愛げがあるので良いとされるが、 欧米では低い方が安心できて良いと考えられる傾向にある。 そのため、両者のニュースキャスターの声を比べると明確な差が生じる。

アルティスは高めの声を好む。といっても英語やフランス語より高い程度で、日本語よりは低い。 声の高さは常に一定であることが望ましい。 日本人は電話に出ると声が変わる。男性はふつう電話で低くなり、女性は高くなる。 これはアルカでは見られない。

子供は声が高い。声の高さは幼さを連想させる。 平生よりも高い声は自分が無力であることを相手に知らせて守ってもらおうとする態度と見られる。 アルティスでは自我を確立させることが重要視される。 他人との人間関係によって自分を歪曲させることを嫌う。 そのため相手が誰であろうと声はあまり変えない。 ただ、全く変えないほど無味乾燥ではない。 赤ん坊などの可愛いものに対しては声を高くするし、敵に対しては声を低くして威嚇する。

アルティスは感情に素直なことを良しとする文化であるが、 同時に感情に振り回されないことも良しとする文化である。 そのため、自分の機嫌によって声の質をころころと変えることは格好悪いとみなされる。 怒っているからといってむやみやたらと怒鳴り散らすのは大人気ないとされている。 日本では上司が怒鳴っても周りは仕方ないと諦めているが、 アルティスではそのような輩は社会全体の暗黙の倫理観から排除される。

ところで、どのような声の運用が好まれるかということも文化によってまちまちである。 抑揚をつけて高低差を明らかにしてハキハキ喋る方が良い文化もあるし、 水が流れるように抑揚無く途切れもせず喋る方が良い文化もある。 アルティスではハキハキ喋る人となだらかに喋る人は区別され、 その区別がその人のキャラクター性や人物評価を左右する。 ただ、なだらかといっても制アルカは語頭にアクセントを置くため、フランス語と響きはかなり異なる。

一方、個々の単音は日本語と違って明瞭に行われる。 抑揚がなくて発音が悪いと陰湿に聞こえるからである。 発音は綺麗にしておかないと聞き取れないし汚らしい。

加えて、制アルカの語は短いものが多い上に、アプラウトを利用したn対語というものがある。 少しでも聞き間違えると全然別の語になってしまうため、嫌でも発音を綺麗にせざるをえない。 そのため、個々の音声にかかる発音時間は日本語や英語に比べれば長く、 話し声は全体的にゆっくりと聞こえる。 だが、そもそも語形が短いので、文全体の発話時間は自然言語と比べても決して長くない。

ヴァルテはこういった制アルカの性質に沿った声を意識している。 あまりに抑揚の付いた喋り方はうるさいとか馬鹿っぽいといった悪印象を与えるので避ける。 速すぎる喋り方は落ち着きのなさを表わすので、これも避ける。 自分たちの言語の美化に日々努めているわけであり、言語への美意識の程度は強い。

尚、このようなアルカの性質は歌にまで及んでいる。 声を楽器のひとつとみなし、歌の主役にせず、喋るように囁くように歌うことがある。 勿論、声を主役にしてメロディーラインを歌うような一般の歌曲も存在する。

3:男女の声

一般に、成人男性はC3からC2の間で会話を行う。1オクターブの中で高低を繰り返す。 平均的にF2辺りの音が多用される。 抑揚を付けるために強調する場合、瞬間的にC4程度まで上がることがある。 また、興奮時には全体的に高くなってC3辺りの音が多用される。

一方、女性は全体的に男性より3度から1オクターブほど高い。 後者の場合、C3からC4の間で会話を行い、F3辺りの音が多用される。 これは非常に高い声である。そこで、実際には男性より5度ほど高いということが多い。 また殆どの場合女性は男性より声が高いから言わずもがなかもしれないが、 アルティスでは女性は男性より声が高いほうが望まれる。 男女共に高くて落ち着いた声が好まれることは共通するも、女性のほうが高いことが望まれる。

尚、当然のことながら、子供は男女関わらず成人女性よりやや高い声で話す。 小さいころは女子の方が体が大きいので男子より声が低いが、 社会的に女性の方が男性より声が高いことが好まれる。 それを知っているので少女はわざと声を高くし、少年はわざと声を低くするといったことがある。

少年は他の少年をからかうとき、高い声で相手の口真似をして怒らせる。 人気のない女子は低い声で口真似される。逆にぶりっ子をバッシングするときは高い声で相手の口真似する。 アシェットではメル7年ごろ、この傾向が盛んだった。

4:発声法とイントネーション

発声法には胸式と腹式があり、言語によってどちらを使うかが決まっている。 たとえば日本語は胸式であり、英語は腹式である。 どんなに個々の音素の発音を良くしても腹式で発音しなければあまり英語らしく聞こえないし、 逆に言えば腹式でリズミカルにきちんと深い声を出せば発音はそれなりでもまぁまぁ英語に聞こえる。 対象言語の発声法が胸式なのか腹式なのかということを知るということはその言語を習得する上で重要である。

発声法はアクセント体系と密接に関わっている。 英語のような強弱アクセント体系では強拍が一定の間隔で現れるのでリズミカルになる。 リズムを刻むためには胸式より腹式の方が優れている。 英語のリズムを刻んで発話していくと腹筋が一定のリズムを刻んで震えるが、 このリズムが英語のリズムを作っている。

では、胸式で同じくリズムを刻めるかというと難しい。 そもそも腹筋というものは息をハッと吐いた後、自動的かつ無意識に空気を吸ってくれる便利なものである。 したがって、腹筋がリズムを刻むたび、発話に必要な空気が補填されていく。

一方、胸式呼吸には空気を補填する能力がない。 また、ハッという雑音がでてしまう上に、頻繁に息切れを起こす。 胸式で英語を話そうとすると息切れしてリズムが保てない。そのため、英語では腹式呼吸が使われる。

では、制アルカの発声法はどうなっているのかというと、制アルカの発声法は日本語と同じような胸式である。 これは制アルカが高低アクセントの体系を取るということと関連する。

胸式呼吸は息切れしやすい。文の始めは強く聞こえるが、どんどん息が減り、文末が聞き取りづらくなる。 厳密にいえば日本語では語アクセントを境にピッチの上昇現象が見られ、下がりかけた音が一時的に復活する。 息は減っていくのでピッチはボールが下り坂を跳ねる軌跡を描いて下がっていく。 カタセシス(ダウンステップ)という現象である。 だが、カタセシスがあろうが、結局文末が尻すぼみになるという点では変わらない。

日本語は否定文であることを特徴付ける「ない」が文末の方に来るので、 しばしば否定文を肯定文と聞き間違えられる。 制アルカは一般的に重要な語ほど文頭に来るから、胸式でもあまり問題ない。

胸式呼吸は息切れしやすいので、途中にポーズをおいて空気を取り入れる必要がある。 談話の中で最も顕著なポーズは文と文の切れ目である。 したがって、1文あたりの単語量が少なければ少ないほど空気補填がしやすいということになる。 空気補填がしやすいということはそれだけ文末が聞き間違えられにくいということである。

ここに制アルカの短文主義が関連してくる。制アルカは短文主義を掲げ、1文は短い方が良いと考える。 そのため日本語に比べて1文の長さが短く、空気補填のチャンスが多い。 したがって、文末も聞き取りやすく設計されている。

制アルカの文は胸式なので文頭が高く強いが、 次のポーズに至るまで徐々に弱まっていくそしてポーズが来ると空気を補填してまた持ち直す。 尚、文中のポーズは文と文の間のポーズより短い。ポーズ時間が短いので空気補填量も比較的少ない。 したがって、文頭と同じくらいの高さに持ち直すことはない。

プロミネンス(特に強く発音する音節)を考慮しない単純なモデルを考えた場合、文頭が一番高い山になる。 後はポーズまで下降し、ポーズ後でまた小さな山を迎え、そこからまた次第に下降していき、やがて文末に至る。 図的にはちょうど投げられたボールが下り坂をバウンドしながら進んでいくといった感じである。 跳ね上がったボールは地面に落ちるが、地面に接触すると跳ね上がって多少高度を回復する。 しかしすぐにまた下降する。 バウンドする力は毎回弱まっていくため、最初ほど高い地点には至らないというわけである。

しかし、今述べたのは飽くまで単純化されたモデルである。 実際の文には内容語と機能語が混ざっている。 一般に前者の方が高く強く発音されるため、文頭から順に音が強く高いとは限らない。 機能語→内容語という順番なのに、後ろにある内容語の方がむしろ音が高いということがありえる。